2013年2月22日金曜日

英酒造企業が、EU離脱を望まないワケ(英エコノミスト)

 本サイトで今月1日、ディアジオ(英)のポール・ウォルシュCEOが「英国はEU(欧州連合)に留まるべき」と発言した、という記事を掲載した。

 これに、英国のユーロスケプティシズム(欧州懐疑主義)の側から異論が出るかもしれない――英国の酒造業は、今や中国、インド、あるいは南米など世界中に輸出する一大産業となった。そうであるならば、英国ほどの大国にとっては益よりも負担が大きいEUに留まり続けるより、独立独歩で進んでいく方が酒造業にとっても良いのではないか――と。

 この点について英紙「エコノミスト」が、英酒造企業がEUから離れたがらない理由を解説している。

Johnnie won’t walk out(英エコノミスト)
http://www.economist.com/news/europe/21572191-why-scotch-whisky-makers-want-stay-european-union-johnnie-wont-walk-out

EUという「国」


 まず、EUの市場規模を再確認しなければならない。EUを単一の国として見た場合、GDP(国内総生産)は17兆ドル(約1580兆円)に上る。米国の上を行く数字で、すなわちEUは世界一のGDPを持つ国、ということになる。酒類にこれをスケールダウンした一例として、マーケティング企業「インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・リサーチ」は、スコッチ・ウイスキーの販売先の4割がEU向けであったと発表している。経済危機に瀕し、酒造各社の実績発表時には毎回(悪い意味で)名前が挙がるスペインでさえ、中国の倍額以上、スコッチ・ウイスキーを輸入している(SWA発表)。

 EU域内の「モノ」の移動には通関手続き等を必要としない。もしEUから離脱すれば、関税を含め通関コストを支払わなければならなくなる。

 またヨーロッパ市民が持つ、スコッチ・ウイスキーに対する「好印象」も無視できない。スペインでフランコ政権が終焉したとき、ウイスキーを飲むことは富と解放の象徴であったし、ギリシャでは「ヨーロッパ人の証」として中産階級の間でウイスキーを飲むことが好まれた。先にも述べたとおり、これらの国は現在、経済危機に喘いでいる。しかし一方で、2004年にEU加盟したポーランドは経済成長の中にあり、ウイスキー市場も急成長している。今後、新たな加盟国が現れる可能性も否定できず、こうした点から、英酒造企業にとってEU離脱は不利益の方が大きいと考えているのだろう。

インドとのFTA


 EUの外に目を向ける。以前、本サイトで以下の記事を引用したことがあった。

インドにウイスキー売り込み 日本の上質もの飲んで!(共同)

 同記事では「英国の植民地だったインドにはウイスキー愛好者が多い」としている。これは間違いではなく、今回の元記事でも「インドのウイスキー消費量は、インド以外の世界とほぼ同等」と触れる。ただし、インドで多く飲まれるのは「マクダウェルズ」「バグパイパー」といった、名前はスコッチ風だが地場産のウイスキーだ。これらは糖蜜を原料とするため、ウイスキー愛好家の中には「ラム」と揶揄する者もいる。

 そしてインドでは、「本物」のスコッチ・ウイスキーに150%の関税が掛けられる。富裕層以外にとっては高嶺の花だ。酒造業界はこの状況を良しとはしていない。現在、EUとインドはFTA(自由貿易協定)の交渉中で、SWA(スコッチ・ウイスキー協会)もこの交渉に期待を寄せる。

 当然、英国がEUから離脱すれば、FTAの話は最初から無かったことになる。FTAによって大きな恩恵を授かる英酒造企業にとって、EUからの離脱を好むはずがない。

「ジョニーウォーカーは孤独に歩きたくない」


Johnnie Walker スコットランドは来年、連合王国からの独立の可否を問う住民投票を行ない、連合王国のデイヴィッド・キャメロン首相もまた、2017年にEU加盟継続の是非を問う国民投票を行ないたい意向だ。

 しかし元記事の「エコノミスト」はこれまで述べた点を鑑み、連合王国とEUという2つのユニオンに留まり続けることがウイスキー生産者の望むことと結論づける。なかでも、EUという単一市場に残留することが絶対的な優先事項としている。その上で、ジョニーウォーカーのイメージキャラクターである「ストライディングマン」(写真)になぞらえ、以下のようにまとめる。

「ジョニーウォーカーは世界中を歩き続けるだろう。しかし、孤独に歩むことは望んでいない」


<関連記事>
ディアジオ、中間決算発表――西欧不調も、収益とも成長続く(BBC他)

0 件のコメント:

コメントを投稿